今回は、昨年の3月に発売された作家生活10周年記念作品となる、朝井リョウさんの『正欲』をご紹介します。数々の賞を受賞し、「傑作か、それとも問題作か」と評された現代社会に衝撃を与える1冊。
2023年に映画化することも発表された注目作品です。
- 内容が気になる
- 面白そうなら読んでみたい
- 「多様性」について考えている
- 朝井リョウ作品が好き
そんな方は、ぜひ参考にしてみてください。
読んだ感想
帯に書かれていた「読む前の自分には戻れない」という一文。
読み始めてすぐに、この言葉の意味を痛感しました。
まるでオセロのようにこれまでの正義や固定概念がひっくり返されていく、とんでもない”怪作”。
自身の浅はかさを思い知らされ、真っ向から「善の想い」が打ち砕かれていく。
それでも、多くの人に読んでほしい。
どうか、心して...
少しネタバレ
結末には触れない程度に、もう少しこの本の魅力をご紹介します。
あらすじ
生き延びるために、手を組みませんか。
いびつで奇跡のように巡り遭う―――。
あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。
朝井リョウ『正欲』作家生活10周年記念作品 特設サイト | 新潮社 (shinchosha.co.jp)
交差する3人の物語
本書は、とある事件をきっかけに交差した3人の物語が描かれています。
〇不登校の子をもつ検事・寺井啓喜
〇誰にも言えない秘密を抱える寝具店の店員・桐生夏月
〇多様性を主張する学祭実行委員・神戸八重子。
年齢も職業もバラバラで交わるはずのない彼らの人生は、令和という新時代に向かって、一歩ずつ近づいていきます。
3人を結ぶ「とある事件」とは一体なんなのか。
3人称による複数の語り手でストーリーが進んでいくところも面白く、リズムよく読み進めることができます。
多様性の風潮(ネタバレ有)
近年よく耳にするようになった「多様性」という言葉。
―― 今は多様性の時代だから
―― 多様性万歳!
本書は、そうした「多様性」という言葉の使われ方に対して、問いを投げかけます。
自分に正直に生きよう。そう言えるのは、本当の自分を明かしたところで、排除されない人たちだけだ。
『正欲』朝井リョウ/214頁
多様性を唱えながらも、無くならない差別や偏見。
それは結局、自身が想像し許容できる範囲でしか世の中を見ようとしていないからではないか。
理解、把握、想像。
これらが欠如してはいないだろうか。
痛快なメッセージに、思考がグルグルと頭をめぐります。
おわりに
漠然とした思考や、登場人物の心情を言語化することに卓越した著者・朝井リョウさん。
彼の表現があるからこそ、鋭く響くメッセージ。
多様性という言葉・風潮に疑問を抱いている人にぜひ読んでほしい一冊です。
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